抗腫瘍薬

HER2 〜分子標的薬〜

HER2と言えば・・・

乳がん トラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)!

というイメージが強い人が多いのではないでしょうか?

たしかに、それは正解です◎

しかし現在、抗HER2抗体薬はハーセプチン以外にも色々な薬が使われています。

今回はそんな抗HER2抗体についてまとめていきます。

HER2とは?

HER2Human Epidermal Growh Factor Type 2の略です。

日本語にすると「ヒト上皮細胞増殖因子受容体2型」であり、これは細胞の増殖に関わっているタンパク質です。がん細胞ではこのHER2タンパク質が過剰発現していることがあり、癌細胞の増殖の亢進転移能の上昇など癌細胞の悪性化と関連しています。

乳がんでは20%~30%でHER2過剰発現があり、再発率の上昇や生存期間の低下など予後不良となってしまいます。また、乳がんだけでなく胃がんでもHER2過剰発現は見られます。(日本人の胃がんでのHER2陽性率は臨床試験:JFMC44-1101より、約20%であることが分かっています。)

HER2の判定方法は?

HER2を測定するには、まずがんの組織を取ってきます。そして最初にIHC法(Immunohistochemistry:免疫組織化学法)により0、1+、2+、3+に分類します。

※抗原抗体反応によりHER2タンパク質を染色することで判定する方法です。

0、1+だとHER2陰性という判定になります。

3+だと陽性です。

問題なのは2+です。2+はequivocalという扱いとなり、追加での検査が必要です。FISH法(Fluorescence in situ hybridization)という検査を行い、陽性であればHER2陽性、陰性であればHER2陰性となります。

HER2の判定(IHC法)
  • 0 ⇒ HER2陰性
  • 1+ ⇒ HER2陰性
  • 2+ ⇒ FISH法を行う。(陽性の場合⇒HER2陽性、陰性の場合⇒HER2陰性
  • 3+ ⇒ HER2陽性

カルテにはHER2陰性か陽性かがハッキリ書かれていないこともあるため、陰性と陽性の境目はどこなのか覚えておくといいと思います◎

HER1やHER3もあるの?

HER2が有名となっていますが、実はHER1~HER4の4種類が存在しています。

これらをまとめてHERファミリーと呼びます。

なんと、HER1は別名EGFRであり、HER2より先に発見されています。EGFRといえば、みなさんご存じの受容体ですよね。(抗EGFR抗体薬:ベクティビックス、アービタックスが標的としているタンパク質ですね。)

※EGFR抗体薬についての記事はこちら↓

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抗HER2抗体薬

HER2陽性の乳がんや胃がんは先述したように、増殖能が高く予後不良となっています。そこで、抗HER2抗体薬を投与することでHER2と結合し、がん細胞の増殖を抑えていきます。

トラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)

HER2薬の中で一番最初にできた薬であり、ハーセプチン150mgは2001年5月より販売開始となっています。現在では各メーカーより後発品製剤も登場しており、薬価も安くなっています。

HER2陽性の乳がん胃がんに適応があり、乳がんでは再発・治癒切除不能な乳がんだけでなく、ドセタキセルと併用することにより術前化学療法や術後化学療法にも使われています。胃がん(再発・治癒切除不能)ではHER2陽性の場合、1次治療の段階で使用されます。(SOX+Tmab、XP+Tmabなど)

投与方法では、添付文書ではA法とB法が記載されていますが、実臨床ではB法(初回:8mg/kg、2回目以降:6mg/kg 3週間ごとに投与)が使われていることが多いのではないでしょうか。単剤だとA法でも投与できますが、他の抗がん剤と組み合わせるとB法の使い方になってきます。体重により投与量が決定するため、投与中は体重の増減をチェックしていく必要があります。

また、インフュージョンリアクション対策のため初回は90分かけて投与し、問題がなければ2回目以降から30分投与へ変更可能というところも注意が必要です。※インフュージョンリアクション対策での前投薬を投与する必要はありません。

また、バイアルの中に粉で入っているタイプの薬であり調製時には60mg製剤は3mL、150mg製剤は7.2mLの注射用水で溶解しなければなりません。(溶解後には生理食塩水に混注します。)溶解する時には、タンパク質であるため泡立たないようゆっくり転倒混和し、溶け残りのないよう気を付けていきましょう。

ペルツズマブ(商品名:パージェタ)

2013年9月に販売開始となった薬であり、トラスツズマブと同じく抗HER2抗体薬です。

トラスツズマブと併用して使用する薬であり、特に再発リスクの高い乳がんに使用されます。

投与方法は初回840mg(2バイアル)、2回目以降は420mg(1バイアル)を3週間ごとに投与します。トラスツズマブと同じく、インフュージョンリアクション対策のため初回は60分で投与し、問題なければ2回目以降は30分へ投与時間を短縮することができます。

ペルツズマブはバイアルに液体で入っているタイプの製剤であることがトラスツズマブと違う点であり、混注する際には必要量を抜き取るだけでいいので調製は簡単です♪

副作用

心障害

うっ血性心不全などの心障害があらわれる可能性があります。(トラスツズマブ単独群だと約5%)

投与開始前にはLVEF値のチェックや症状の有無などにより心機能の評価を行い、投与開始後も継続して確認していく必要があります。症状としては動悸、息切れ、頻脈、末梢性浮腫などに気を付けていきましょう。

※ドキソルビシンなどのアントラサイクリン系も心機能障害が副作用にあり、抗HER2抗体薬はどうしても同時期に投与することになってしまうためにより注意が必要となります。

インフュージョンリアクション

投与中または投与終了後24時間以内に発現することが多くなっています。発熱、寒気などの軽症のインフュージョンリアクションも含めると発現率は約40%にものぼります。(トラスツズマブ海外試験データより)しかし、重篤例は0.3%となっています。

投与1回目で起こることが多いためトラスツズマブ、ペルツズマブどちらも投与初回時には時間をかけて投与を行います。まれに2回目以降でも出現することがあるため投与中は注意して様子を観察しましょう。

間質性肺炎

DTX+Tmab+Perでの国内臨床試験では発現率は2.2%となっています。

投与中は咳嗽、息切れ、呼吸困難、発熱などの症状に注意していきましょう。

HER2とADC(抗体薬物複合体)

近年、ADC(Antibody-drug conjugate:抗体薬物複合体)の薬が登場してきていますが、抗HER2抗体薬も含まれた薬も出てきているため紹介していきます。

トラスツズマブエムタンシン(商品名:カドサイラ)

2014年4月に販売開始となりました。カドサイラは、トラスツズマブ微小管阻害薬であるエムタンシンを結合させた薬であり、HER2陽性がん細胞に選択的に作用し殺細胞性抗がん薬の抗腫瘍効果を示す薬剤です。

※微小管阻害薬についてはこちら参照↓(ちなみにエムタンシンは単独では存在しない薬です)

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現在乳がんのみに適応となっています。今まで、切除不能・再発乳がんのみ適応でしたが2020年8月に術後補助化学療法の適応も追加されました。(術前化学療法でTmabを用いた際、効きが悪かった患者さんのみに使用することとなっています。)

副作用にはインフュージョンリアクションや心障害、間質性肺疾患の他にも、悪心、末梢神経障害、血小板減少などの殺細胞性抗がん薬に特徴的な副作用もあるため注意が必要です。

トラスツズマブデクステルカン(商品名:エンハーツ)

2020年5月に販売開始となりました。エンハーツはトラスツズマブトポイソメラーゼ阻害薬であるデクステルカンを結合させた薬です。トポイソメラーゼ阻害薬については↓記事参照。

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エンハーツは現在乳がん胃がんに適応があり、どちらも対象は治癒切除不能・再発となっています。(どちらのがん種でも、位置づけとしては3次治療となっています)胃がんと乳がんでは投与量が異なるため注意しましょう。

また、副作用はインフュージョンリアクションや心障害、間質性肺疾患の他に悪心・嘔吐、骨髄抑制、脱毛なども起こりやすくなっています。(イリノテカンのような下痢は頻度としては少なめです。)

まとめ

ここまで書いた通り、HER2関連の薬はトラスツズマブ以外にもペルツズマブ、ADCなど様々な薬が出てきました。まだ新しい薬も多いために、適応が追加されていく可能性が高く、今後も新しい情報をアップデートしていく必要があります。

最後にもうひとつ、HER2関連の薬を書いて終わりとします。

おまけ:HER2阻害薬(小分子)

2009年に販売開始となったラパチニブ(商品名:タイケルブ)があります。

これはチロシンキナーゼ阻害薬であり、HER2の自己リン酸化を阻害します。適応はHER2陽性の乳がんとなっており、カペシタビンやホルモン薬と併用しながら使う薬です。

特徴としては分子標的治療薬ではありますが、小分子のため飲み薬であるということです。また、CYP3Aで代謝されるため、グレープフルーツジュースやその他CYP3A4で代謝される薬などとの併用には注意が必要です。