抗腫瘍薬

抗EGFR抗体薬(分子標的薬)

今回は分子標的薬のひとつ、抗EGFR抗体についてまとめていきます。

EGFRとは

EGFR = Epidermal Growth Factor Receptor 

上皮細胞増殖因子受容体

つまり、細胞の増殖に関わる受容体のことを指します。

EGFR陽性のがんではEGFRの過剰発現が見られ、悪性転化や予後不良に関与します。

※ちなみに、EGFRはチロシンキナーゼ受容体であるHERファミリーに属するタンパク質であり、別名HER1とも言います。(実は、乳がんでよく聞くHER2の仲間なんですね)

抗EGFR抗体はこのEGFRに結合して、シグナル伝達を阻害していきます。

EGFRの作用機序

EGFRの機序を示した図は↓の通りです。

①EGFなどのリガンドがEGFR受容体に結合すると、受容体は二量体を形成します。

②すると、細胞内のポケットにATPを結合させ、チロシンキナーゼ領域の自己リン酸化を起こし、タンパク結合部位が活性化します。

④これが引き金となりシグナルアダプターや酵素などが動員され、さらにRAS、RAF、MEK、ERk、PI3K、PDK、Aktなどの下流タンパク質を動員し、シグナル伝達が活性化し、病的遺伝子の転写が促進されます。

④その結果、血管新生(VEGF産生)促進、腫瘍の生存・増殖・湿潤・転移が促進されます。

抗EGFR抗体がEGFRに結合することにより、病的シグナルの伝達を阻害して血管新生、腫瘍の生存・増殖・湿潤・転移を阻害します。

しかし、RASが恒常的に活性化している場合(KRAS遺伝子に変異があるということ)は抗EGFR抗体が受容体に結合しても下流で恒常的にシグナル伝達が活性化されてしまうため、抗EGFR抗体の効果は発揮されません。そこで、抗EGFR抗体の適応はKRAS遺伝子野生型(KRAS遺伝子変異なし)となっています。

抗EGFR抗体薬の種類

現在、3つの薬が承認・販売されています。どれも適応は「EGFR陽性であり、KRAS遺伝子野生型であるがん」であることを知っておきましょう。

3つの薬で違うところは適応がん種です。

セツキシマブ Cetuximab(商品名:アービタックス)

  • 2008年9月 販売開始
  • 薬価:100mg/1V = 約3万7千円 
  • 適応:大腸がん、頭頚部がん
  • 用法用量:週1回投与 初回は400mg/㎡、2回目以降は200mg/㎡
  • 単独で使用する場合、他の薬剤と併用する場合がある

パニツムマブ Panitumumab(商品名:ベクティビックス)

  • 2010年6月 販売開始
  • 薬価:100mg/1V = 約8万円、400mg/1V = 約30万円 
  • 適応:大腸がん
  • 用法用量:2週間に1回投与 6mg/kg
  • 単独で使用する場合、他の薬剤と併用する場合がある

セツキシマブはヒト/マウスのキメラ型抗体であるため、インフュージョンリアクション(Infusion Related Reaction:IRR)が起こる可能性がありました。しかし、完全ヒト化抗体であるパニツムマブの登場により、IRRの起こる可能性は低くなりました。

ネシツムマブ Necitumumab(商品名:ポートラーザ)

  • 2019年11月 販売開始
  • 薬価:800mg/1V = 約23万円 
  • 適応:非小細胞肺がん(扁平上皮がん)
  • 用法用量:800mg/回 週1回×2で投与し、3週目は休薬 
  • GEM+CDDPと併用して使用

これらの情報をまとめると、

大腸がん⇒ベクティビックス

頭頚部がん⇒アービタックス

肺がん⇒ポートラーザ

のようにがん種毎で使い分けるのが一般的であるといえます。

副作用

抗EGFR抗体3つの薬には共通して、特徴的な副作用があります。

インフュージョンリアクション

即時性のアレルギー反応のことを指します。

典型的な症状は発熱、悪寒、発疹、呼吸困難、血圧低下等です。

上にも書きましたが、この3つの薬の中ではキメラ型抗体であるアービタックスで起こる可能性が高くなります。投与中、投与後1時間は注意深く観察しましょう。また、2回目以降の投与でも起こる可能性はあります。

皮膚障害

抗EGFR抗体薬で一番重要になる副作用です。

薬の効果に比例して起こるため、必ず起こると思っておいた方が良いです。

(抗がん剤が効けば効くほど皮膚障害も起こるということです・・・)

症状は3つに分けられます。

  • ざ瘡様皮疹(ニキビ) 1〜4週間
  • 皮膚の乾燥・ひび割れ・かゆみ 4〜5週間
  • 爪囲炎 6〜8週間

これらの症状を少しでも軽くするため、投与開始時からスキンケアの指導を行うことが重要です。(①清潔 ②保湿 ③最小限の刺激)保湿のためにヘパリン類似物質クリームを処方してもらっておくとなお良いですね。

また、抗炎症効果のあるミノマイシンを投与開始時から服用すると良いとも言われています。

それでも投与をしていくと皮疹が出てしまうことが多いです。この時はステロイド外用剤を用いながら、日常生活に支障が出ない程度にコントロールしていくことが大切です。(Grade2以下を保つ)症状が強い場合は腫瘍内科Dr.だけでなく皮膚科Dr.にコンサルトして診てもらいましょう。

有害事象に耐えられなくなってしまったら、抗EGFR抗体薬の投与を中止せざるを得なくなってしまいます・・・

電解質異常

低Mg血症、低Ca血症、低K血症が起こる可能性があります。(約30%。Mg>Ca>Kの順で起こりやすい)

通常の血液検査のオーダーでMgがデフォルトで入っている病院はそう多くはないと思います。最低でも3ヶ月に1回はMgを測定してもらうようにしましょう。また、必要な場合には硫酸Mgを投与するなどして補充をしましょう。(血清Mg濃度1.2mg/dLを下回ると症状が出てくる)

口内炎

発現頻度は約16%であり、投与開始後7〜10日で発現します。

口腔内を清潔に保ち、適度に保湿をして予防しましょう。

また、口内炎ができてしまった場合は軟膏や貼り薬等で治していきましょう。

間質性肺炎

頻度1.3%、死亡率0.6%でありどの時期でも起こる可能性があります。

間質性肺炎の既往/合併、男性、患者状態不良、高齢」が発現リスクとなるため気を付けましょう。

淡を伴わない咳(空咳)、息切れ・呼吸困難、発熱などの症状が出たら連絡するように患者さんに伝えておきましょう。

まとめ

・抗EGFR抗体薬はEGFR陽性かつKRAS遺伝子野生型に適応

・3種類の薬(セツキシマブ、パニツムマブ、ネシツムマブ)

・皮膚障害、電解質異常の副作用に注意